『駅メモ!北海道全駅制覇の旅』――hnakaiの視点から

目次


いんとろだくしょん

この記事は,すーみん氏の『駅メモ!北海道全駅制覇の旅』の旅程策定にトレイヤ氏とともに願い出たらなんだかすごいことになっちゃった(?),そんな話です.

さて,すでに以下の記事やツイートが公開されています:

すーみん氏の視点

出発前のnote

note.com

旅行中のツイート

twitter.com

twitter.com

トレイヤ氏の視点

※連ツイのため新規タブで開くことを推奨します

 

 ということで,hnakaiの視点

トレイヤ氏から

 と催促をもらったので,ただでさえ遅筆で学部1年実験レポート未提出で留年したレベルのhnakaiが重い腰を上げて本記事を書くことになったわけです(もっとも趣味のことなのでレポートよりは筆は進むはず...)(とかいいつつ旅行終わってだいぶ経ってからの公開になってるわけですが...)

大筋の話は上記にすでに出ているとおりなので,細かい補足や背景などを中心に書いていこうと思います*1

背景

登場人物

すーみん(@miqa3983)

旅の主人公.人生が初音ミクなレベルのミク廃.同人個人サークル『Sewing Future』をもち,最近はマジカルミライ合同誌『Creation Our MIRAIes!』を企画・主宰した.雪があまり降らない九州の生まれで,雪の大地・北海道と雪ミクには思い入れがある.鉄道おたくというわけではなく,どちからといえば乗りつぶしよりは駅メモの駅集めのほうを優先.

トレイヤ(@_Traiya)

歴戦のおでかけおたく.市町村・重伝建*2・大学・路站*3の塗り*4・収鋲を日々施行している.先鋭語*5話者.自称"乗りつぶししたことなしゆるふわおでかけ初心者"*6

hnakai(@hnakai0909)

筆者.鉄道乗りつぶしおたくのM1.先日三県境お客様~とかやってたらバズってしまった.2人とは旅行以外のある共通の趣味で知り合う*7

駅メモ

ekimemo.com

駅メモ!とは,スマートフォンで動作する位置情報ゲームアプリです.GPS位置情報を利用するゲームではPokémon GOが最も有名ですが,駅メモ!は位置ゲーの中でも特に国盗り合戦など全国を周遊・蒐集するタイプです.日本全国の駅にチェックインすることが目的で,鉄道旅行趣味者によく遊ばれています.

過去の事例

そもそも実は,筆者は過去にもすーみん氏の駅メモ!のための旅程作成に協力したことがありました.

ほぼ1年前,こんなLINEが飛んできました*8

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聞くと,新潟・直江津で開催されるコスプレ撮影会の帰路のついでに,「えちごツーデーパス」を用いて,新潟県内の駅メモ駅蒐集をできるだけ進めたいとのことでした.

大きな課題として,普通列車だけでは越後湯沢→水上(上越国境)の終電が早く1日を有効に使えない問題がありましたが,定番の「越後湯沢→[上越新幹線に課金]→上毛高原→[駅間徒歩]→後閑」ワープを用いることで首都圏の終電に合わせるかたちになりました.

 ただし今となってはルートに改善点があったのも事実です.磐越西線を攻める際に,乗り通すのではなく,県境手前の鹿瀬で折り返すかたちにしました.乗りつぶしが目的ではなく,えちごツーデーパス利用なので県境を超えると不利,野沢以東は折り返し便が増えるので別の機会に回収しやすいなどの理由でしたが,ここは日曜日に郡山方面まで乗り通してそのまま関東に抜けることも考えられたでしょう.

旅程探索のためのツール

Yahoo! 乗換案内アプリ

スマホアプリ版のYahoo! 乗換案内の時刻表は,駅の時刻一覧から列車の停車駅時刻一覧を,そこからまた駅の時刻表を,というふうに,少ない操作でどんどん乗り換えの試行をすすめることができます*9.また,途中で詰むことがわかった場合に,(iOSなら)スワイプだけでbacktrack*10できるのでとても便利です.

 ただしWeb版は打って変わって人力旅程探索においてはまったくもって使い物にならないです.上下の動画を見比べてもらえれば,上の動画では20秒ほどで稚内旭川→上川→旭川にbacktrack→美瑛というふうに探索できていますが,下の動画では30秒もかかって上川に辿り着くのに精一杯であることがわかります*11.操作手順をみると,「駅方面別時刻→列車時刻→駅方面選択→駅方面別時刻」に対して,「駅方面別時刻→列車時刻→駅情報→駅方面別時刻(※なぜか決め打ち)→駅方面選択→駅方面別時刻」であり,このループをどんどん回したいのに,後者のほうが余計な操作が必要なのです.

通常旅程の入力には複数のウインドウが並べられるPCが有利のはずですが,このように人力予定探索ではスマホアプリのほうが断然早いため,結局両方使う羽目になっています.

そもそもはといえば紙の時刻表から入った人間なので,無料のオンライン時刻表サービスとしてえきから時刻表を愛用していたのですが,2019年3月にサービス終了してしまいまい,今や無料で紙の時刻表と同様の形式でダイヤを閲覧することはできなくなっています*12.通過(レ)・別線経由( || )*13・列車の順序関係・直通などはこの形式でないとわかりづらいので,かなしいですね……*14

バスマップ

busmap.info

 バスマップは,バス路線とバス停の位置を確認できるWebサービスです.ただし,「国土数値情報の2019年12月6日時点での最新データ(平成22年度作成バス停留所データ・平成23年度作成バスルートデータ)」を用いていて,以降の新設・変更・廃止は反映されていないため,情報の信頼性はいまいちです.そのため,あくまで「鉄道ではつながっていない地点AとBを連絡できるバスがある!」のようなことを見つける際のヒントとして用いるべきで,実際のバスルートやバス停の位置は運営事業者のサイトやGoogleストリートビュー,ときにはTwitterのツイート検索に頼って再確認することになります.また,用いているYahoo!の地図APIがまもなく提供終了となるそうで,改修されるか気になります.

Googleマップ

地図は必須です.前述のように,駅の出入口・バス停位置確認などのため,衛星写真ストリートビューにもお世話になります.また徒歩区間の距離・時間の見積もりに経路検索を利用することがあります.

OneNote

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OneNoteで旅程を検討している様子.
テキストボックス(画像では強調のため後から黒い四角で囲っている)を自由に配置できる

旅程策定の際,今まではメモは紙,清書はExcelという感じでした.が,今季は大学の授業がすべてオンライン化し,自宅で受講することになったため,たまたま持っていたペンタブレットOneNoteを利用してノートテイキングを始めた,ということもあり,今回初めてメモとしてOneNoteを利用しました.ノート内の好きなところに文字を書き始められて,付箋に書いたようにぐりぐり配置を動かせるところが気に入りました.ある程度固まった旅程のピースのストックをいくつか作っておいて,そしてそれらを組み合わせての検討ができるという点で新しい体験でした.なおテキストだけではなく画像も切り抜き帳の様に配置でき,たとえば地図のスクリーンショットを一緒に貼っておくこともできます.

北海道周遊ルートの先行研究との比較

travel.spot-app.jp

先行研究(※駅メモ!のPR記事です)では,フリーきっぷなし・鉄道(+代行バス)のみ・特急乗車制限なし・0から全駅回収・レーダーやルートビューンの類の制限なし などの条件で,6日間かけて全559駅の回収とMO*15北海道の獲得に成功しています.ただし6日という日数にスタートまで・ゴールからの移動は含まれていません.

 

toyokeizai.net

また別の先行研究では,対象をJR北海道の全路線として,他の交通手段を使わずに,「4日19時間16分」で乗りつぶし可能であることを示しています.ただし,JRのみなので道南いさりび鉄道や市電・地下鉄・廃線区間は含まれていませんし,逆に函館本線の8の字区間である砂原線や藤城線や,代行バス区間もすべて乗っています.

 これら2つと今回の旅程を比較した表は次のとおりです.

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各北海道周遊行程の比較

盲腸線と「単振動」

ここでの「単振動」とは,盲腸線などを攻める際に単純に往復乗車することをいいます*16

乗りつぶしにおける「単振動」のメリットは:

  • 行程を脳死で組める
  • 前後の行程を絡めないならばその部分については所要時間が最短
  • 本数が少ない路線ならばたいていは終着駅でそのまま同じ列車が折り返すので,忘れ物や居眠りで旅程崩壊するリスクが少なく,気が楽
  • 単一の会社のみを利用するためよりフリーきっぷの恩恵に与(あずか)れることが多い

などがあります.一方デメリットは:

  • 車窓が同じでつまらない
  • 行きと帰りで別の場所に立ち寄る,などのことができない
  • なんか負けた気がする*17

などが挙げられます.

今回の旅では,宗谷本線・根室本線釧路以東(愛称:花咲線)・日高本線留萌本線,細かいところでは函館市電札幌市営地下鉄などが盲腸線に該当します.特に長大路線であれば半日~一日を消費するため,時間が限られた行程の中で大きなファクターを占めてきます.

日高本線

日高本線は,苫小牧側から様似まで日帰りで代行バスのみで「単振動」する乗り継ぎパターンが1通りしかないなど,攻略難易度が高いことが 知られています.リンク先の駅メモ!wikiにも記述がありますが,高速バスペガサス号日高本線の浦河以北と並走しており,JR代行バスが国道から外れて各駅に寄ったり乗り換えで長時間の待ちを食らっている間にリクライニングシート・トイレ・USB充電ポートつきのペガサス号は札幌までたった3時間半で直通してしまうので,¥3280の課金の価値は十分あるといえます.

もっとも並走区間が長いので完全な「単振動」回避ではないといえばそうです.ただえりも岬から広尾・帯広へ抜けるルートは高速道路が未整備で,路線バスの長距離旅になるので,時間が限られていた今回はこのルートはパスとしました.

花咲線

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花咲線ダイヤグラム(イメージ)

花咲線のダイヤは上図のようにかなりシンプルで,釧路で基本的に特急おおぞらと接続をとるなどわかりやすいものになっています.乗りつぶしだけ目的なら根室でとんぼ返り,ちょっと足を伸ばすなら1段 落として*18根室駅で接続している根室交通納沙布線で納沙布岬の訪問も可能です.

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中標津へのバスルート [阿寒バスHPおよびバスマップの画像を加工]
左から標津標茶線,釧路標津線,空港連絡バス
左下の紫枠が釧路,オレンジ枠が中標津,青枠が根室

そんな花咲線,この果ての地に単振動回避策があるかといえば……あります.ひとつは根室バスの特急ねむろ号が挙がりますが,鉄道とほぼ同一ルートの上鉄道より遅く終バスも早いのであまりメリットはありません.オーロラ号も札幌まで抜けてしまえますが,道東をぐるっとまわるルートを途中で切ることになるので好ましくありません.

そこで,衛星写真で巨大な格子*19が見えることで有名な中標津を経由するという方法を見つけました.根室から中標津空港まで出ている根室交通の空港連絡バス(もしくは根室交通厚床線+中標津線)と,阿寒バス釧路標津線または標津標茶線を組み合わせることで,根室脱出ができます.音ゲーマーの方は複数の日本最東端筐体が東武サウスヒルズモーリーファンタジー中標津店に所在することをご存知かもしれませんので,これの訪問のついでに寄ることもアリでしょう.また,お金があればそもそも北海道の出入りに中標津空港を使ってしまう手もあるでしょう*20

ちなみにこのルート,土休日にはかなり本数が少なく,実際に日中に抜けるルートの探索はけっこう大変でしたが,ちゃんと存在は確認できました*21

宗谷本線

宗谷本線は特急列車でも3時間半強,普通列車では6時間かかる長大な盲腸線になっています.こちらは終点稚内側に稚内空港があり,新千歳または羽田に飛ぶことはできますが,フルキャリアかつ割引の少ない区間のためそれなりにお金がかかってしまいます.

バスを利用した単振動回避の方法をみてみましょう.沿岸バス「その他交通機関」の図がわかりやすいです.オタク向け訴求活動を行っている沿岸バス日本海側沿岸を高速はぼろ号や豊富留萌線を利用するルート,高速わっかない号を利用するルート,宗谷バスの天北宗谷岬線でオホーツク海側から抜けるルートがありますが,今回は豊富留萌線を選択しました.高速わっかない号の深夜便はCOVID-19の影響で運休中でした.天北宗谷岬線は宗谷岬を経由するものの,かなり遠回りかつ本数が少なく,乗り通せるパターンは上下1日1本ずつしかありません.豊富留萌線ならば,短いものの盲腸線である留萌本線へつなげることができます.

なお,豊富留萌線を乗り通す際は萌えっ子フリーきっぷの利用がお得なんだそうです.今回のように豊富側から早い時間の便を利用するときは,委託販売所が早朝は開いていないので,札幌等で事前入手するのがおすすめとのことでした.

ルート品質と査読

今回の旅程案について出発前に画像つきでツイートしたすーみん氏のツイートはたびたびRTされ,詳しい事情を知らない方からは短期間での長距離移動に関して実現可能性に疑問を抱かれた方も見受けられました.新千歳空港駅にある「北海道と本州の大きさを比較」した地図はしばしば内地*22民が北海道は広いことを認識できていないことの代名詞的にTLで見かけますし,はじめのうちは時刻表だけ追いかけているとついつい無謀な行程をつくってしまいがちです.また旅程作成だけ丸投げでそれへの理解がないまま実行しようと/させようとしているのではないかと思った方もいるようでした.

しかしすーみん氏がすでにツイートしている通りそれは違ったのです.

最初はトレイヤ氏とhnakaiの二人でDiscord通話をしながら旅程を検討していましたが,途中からすーみん氏を招集しTwitterのDMやGoogle Meet通話を活用し,上記のような行程作成の技術を共有しながら共に探索を進めていきました.

ルート考案の際も,品質にかかわる以下の点

①費用や時間の負荷が少ない"効率性"
②単振動をなるべく避け複数手段を使いこなす"芸術性"
絶起や遅延など突然のトラブルにも対処できる"冗長性"
④早着といった運に頼らない"再現性"
⑤前例のない行程を編み出す"新規性"

を常に意識していました.

行程の大枠が決まったところで,それをすーみん自ら「査読」(精読)し,スプレッドシートなどを活用して具体的な旅程のメモや駅メモ!の駅リストを作成していました.この作業により行程をより深く理解し,実際に旅行中も鹿への衝撃というハプニングやオプションを切って札幌に早く帰り着きたいという事情の変化に対して自ら行程をカスタマイズして無事遂行していました.

むすび

書きたいことを書いていったら無限に終わらず,旅行終了から時間が経ってしまった一方で完全に早口おたくみたいな乱文ブログになってしまいましたが,今回のルートは(連日費やした時間を美化したい気持ちがないといえば嘘ですが),3人で作業したからこそ完成した到達点だと思っています.

最終日にきっぷをチケットホルダーに忘れてしまう事件があったものの,駅メモのマスターオブ北海道を見事獲得し,そしてなによりすーみん本人が無事帰ってこられたということで,今回の旅行は大成功だったといえます.遅ればせながら長い長い旅行本当におつれさまでした!

 

*1:とはいえ書いてみたら重複してた部分もあるので悪しからず……

*2:重要伝統的建造物群保存地区

*3:道の駅

*4:白地図を塗るように全国を訪問・宿泊し,コンプリートを目指すこと

*5:「Rén」(「人」のピンイン)「爆优」(きわめてすぐれていること),「無謬」(あやまりのないこと,転じてすぐれていること),「違憲」(降雨など人権を侵す事象)ほか,(偽)中国語などを用いて表記する,「先鋭思想」を核心価値観とするスラング

*6:説得力はない

*7:深くは言及しない

*8:朝4時に何してるんだい?

*9:ただし五所川原駅津軽五所川原駅佐貫駅龍ケ崎市駅などのように,実質乗換可能駅だが名称が違う場合はリンクされないのでその点は不便

*10:多くの可能性が考えられる探索において,詰むことがわかった地点から数手戻ってそこから残りの選択肢を探すこと.厳密ではないです>< cf. バックトラッキング - Wikipedia 

*11:まあそもそも論として,頭に路線図が入っていないと駅方面選択のときに悩むので,初訪問の地域ではここまで素早くは行かないです...

*12:JR北海道に関しては似たサービスを提供している

*13:いわゆる藤城線経由の列車を見つけるときなどに重宝

*14:JR時刻表のアプリは存在しますが,どうせなら大画面で一覧性を得たいところタブレットを持っていないのでつらいところがあります.

*15:マスターオブ,その都道府県内の駅取得率が100%になると獲得できる称号

*16:物理用語的には単一の周波数成分のみからなる=「単」純な「振動」を指すと思っているので,1往復=1周期だけを指すには不適切かも...?

*17:それはおでかけオタクだけでは?

*18:いちだん おとす,滞在時間を捻出するなどの目的で今乗っているor直後に来る列車を見送り次の列車に振り替えること

*19:格子状防風林

*20:ただしオーロラ号同様道東をぐるっとまわるルートを途中からはじめる/途中で終えることになるのであまりメリットがないかもしれません

*21:こういうのを見つけたときの達成感はひとしお.

*22:北海道側からみた本州などの道外